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母の世話をしていた10代の私へ|ヤングケアラー実体験とその後の人生

おやのこと

はじめに

「ヤングケアラー」って知っていますか?
家族の介護や世話を担う18歳未満の子どもたちのことを、今は「ヤングケアラー」と呼びます。
この言葉がメジャーになったのは、ここ10年ほどのこと。
私はそれを知って、やっと気づきました。
――あの頃の私は、ヤングケアラーだったんだ、と。

自慢だった母の変化

私の母は看護師でした。
昼夜問わず働く母は、私の誇りでした。父も早朝に仕事に出ていて、2人で協力して私を保育園へ連れて行ってくれました。

でも、父と母は気が強くて頑固なところがそっくりで、私が物心つく頃には、私が寝ているそばで口論する姿が日常になっていました。

私が小学校高学年になる頃、母は父との喧嘩をきっかけに仕事を辞めました。その頃から家に母がいる弟のことが、少し羨ましかったのを覚えています。でもその気持ちはすぐに消えていきました。母が、アルコールに依存していったからです。

私の「普通」は、世間の「異常」だった

最初のうちはまだ料理もしてくれていました。私は母の料理が大好きで、小学校低学年〜中学年の頃は、母のそばで料理を手伝って味を覚えようとしていました。

でも、母の料理はどんどん不味くなっていきました。
家にはタバコの煙とアルコールの匂いが充満し、ボサボサの髪、虚ろな目でタバコを吸う母の姿がリビングの中心にありました。
私の「自慢の母」はもういませんでした。

昼夜の区別もつかなくなり、大音量で音楽を流す。止めようとすれば怒鳴られ、ラジカセを壊される。
父が帰ってくればまたケンカ。
父なりに正気に戻そうとしていたのかもしれないけれど、不器用で、それは逆効果だったと思います。

そして、私はヤングケアラーになった

中学に上がる頃には、私は当たり前のように家事をしていました。母をお風呂に入れ、溺れないよう見張り、上がれば着替えを手伝う。
またお酒を飲まないよう、無理やりベッドルームまで連れていく。髪を引っ張られたり、噛まれたりしても。

父と母のケンカには暴力も入るようになりました。母がわざと手を出されるようなことを言い、父も疲れていてケンカを買ってしまう。青あざを作った母を見るたびに、私が母を引きずっていくことになりました。

母は幻聴や幻覚も見るようになりました。
誰かが窓から覗いている、声が聞こえると110番をして、警察に謝ったこともあります。

入院と再発、そして「世話」

あまりに状態がひどかったため、父は母をアルコール依存症専門の病院に入院させました。
1度目は私が高校生の時、2度目は大学生の時です。

1度目の入院のあとは、「戻ってきた母」を期待しました。でも、1〜2ヶ月で元に戻りました。

2度目は1年ほどの入院。
このときは正直ホッとしました。母が家にいないことで、私は穏やかに過ごせたからです。

父はもう母の世話をしようとせず、すべて私に任せていました。
入院準備、洗濯物の回収、必要な物の差し入れ…全部私がやっていました。

母がいるかいないかだけの違い。それが私の感覚でした。

解放と現在

社会人2年目、やっと家を出ました。
大学時代に半年間、単位互換留学を使って「プチ家出」したときも、何度も母から国際電話がかかってきていました。

家を出て、やっと私は「世話」をやめることができたのです。

今、父は亡くなり、母親は介護付き高齢者向け住宅で生活しています。
長年の酒とタバコで体はボロボロ、人工透析が必要な状態で一人暮らしはできません。
でも、そのおかげで禁酒と禁煙に成功し、現在は元気そのもの。
ガリガリだった体もふっくらして、顔色も良いです。

でも私は、あの頃の話を一切しません。
実家には行くけれど、母は実家に近づけさせません。
あの場所は、もう一緒に帰る場所ではないのです。

昔の私へ、そして今の誰かへ

私は、昔の私にこう言いたい。

「それ、当たり前じゃないよ」
「誰かに頼ってよかったんだよ」

親が助けてくれないなら、親戚でもいい。
親戚が無理なら、近所の人。
近所がダメなら、学校の先生。役場の人。
絶対に、どこかに助けてくれる大人がいる。

だから、声をあげてほしい。
誰にも気づかれず、ひとりで潰れていかないでほしい。

私の子どもたちには、絶対にそんな思いはさせない。
それが、昔の自分への誓いです。

さいごに

今、あなたが「なんで私だけ…」と思っていたら。
私の過去が、少しでも寄り添えたら嬉しいです。
逃げてもいいし、声をあげてもいい。
それは、弱さじゃなくて勇気です。

まとめ:ヤングケアラーの子どもたちへ

「家のことは子どもがするべき」なんて、絶対に違います。
もしあなたの身近に“ヤングケアラーかもしれない”子がいたら、そっと声をかけてあげてください。

子どもを1人にしない社会へ。
その第一歩が「知ること」から始まると思っています。

▼こんなとき、どこに相談すればいい?

  • 学校の先生やスクールカウンセラー
  • 児童相談所(189:いちはやく)
  • ヤングケアラー支援のNPOや自治体の窓口

困ったら、声をあげて大丈夫です。
あなたの代わりに戦ってくれる大人が、きっとどこかにいます。